十二使徒群像「ΙΧΘΥΣ(イクトウス)の三角旗」

shirasagikara2010-02-08

十二使徒を彫ったとき、背面をどうするかにも苦心した。なにしろ高さ80センチ、直径35センチの桜材だ。12人は平均30センチの身長にし、上段のペトロやアンデレは高い大樹の上に立たせたから、背後に大きな壁面ができる。始めはそこに森のような木々の繁る形を考えたが、やめ、オリーブの巨樹に見立てて、二本の大枝を交差するように彫り出し、そのぐらんぐらんする危なげな枝の上にユダを乗せた。しかし、背面が単調だ。
そこで背面に「ΙΧΘΥΣ(イクトウス)」の三角旗をなびかせることにした。いうまでもなく「イクトウス」は、ギリシア語の「魚」という意味だ。その「イクトウス」の5文字が、キリスト信仰に結びつく。つまり「ΙΧΘΥΣ」を頭文字にしてつなぐと、「イエス・キリスト・神・子・救い」となる。ローマ郊外の地下墓地・カタコンベの壁面にも、魚の線画がいまも残され、原始キリスト教会でクリスチャン同士の暗号に使われていたらしい。そして背面に一番近いフィリポを三角旗の旗手にした(写真)。
また前面中段のヤコブにも「ΙΧΘΥΣ」の魚を持たせた。最初、ヤコブの右手は前に突き出し杖をにぎらせるはずだった。しかしその握りこぶしを彫っている最中、ぽろりと手首が折れた。木彫の面白いところは、失敗から、思いもしない発想が生まれることだ。折れた右手を胸にあて、大きな魚を彫り出し、魚の腹に「ΙΧΘΥΣ」と彫ってつかませた。その左手には最初から少し小さな魚をぶら下げさせている。ヤコブガリラヤ湖の漁師の一人だ。両手に魚。ふさわしい姿になった。
また、上段のペトロとアンデレだけは、長い裳裾でなく、腰から下は脚をむき出しに彫った。「さあ、伝道に行くぞ」という決意を後ろ姿であらわしたつもり。そのふたりの腰にΙΧΘΥΣの三角旗がひるがえる構図だ(写真)。
ふつう彫刻は、前からだけ見ることが多い。人間も、よく見える前からだけでなく、ふだん隠れている後ろも大事だ。しかし気張ることはない。裏もありのままの自分がいい。
イエス・キリストは神の子である」(使徒言行録8・37)