鰯と、金子みすず

鰯(いわし)の煮付けを食べる。鰯を食べると金子みすずの「大漁」を思い出す。
朝焼小焼だ/大漁だ/大羽鰯の/大漁だ/浜はまつりの/ようだけど/海のなかでは/何万の/鰯のとむらい/するだろう
大漁にわきたつ浜と、海底の悲しみ。この深い洞察が日本人に欠けていた。
1910年、日本が韓国を併合し、日本国内は提灯行列でわきかえったが、韓国では土を撃ち日本を呪う慟哭(どうこく)の声が山野にみちた。1937年、日本軍が中国の首都・南京を陥落させ、日本国内は「万歳、万歳」の旗行列。その南京では中国人大虐殺の悲劇。
昨年11月、みすずの生まれた山口県の仙崎をたずね、記念館にも立ち寄った。美しい海だった。沖の青海島(あおみしま)がまた絶景。みすずも浜で大漁の網を曳いた。
わたしの初孫が四、五歳のころ、娘と米国から来たとき、魚を食べる前に「おさかなさん、食べていいですか」と、魚に聞いていた。魚の悲しみを知るやさしい子だ。
「悲しむ人々は、幸いである。その人たちは慰められる」(マタイ5・4)