母の髪を刈る

昨年、美容師のMさんが急逝された。彼女は毎月わが家に来て母の髪を刈ってくださった。そこで母はわたしに刈ってくれという。わたしは永く自分で髪を刈っているから鋏の扱いになれてはいる。しかし他人の髪を刈ったことはない。
やむなく母の髪をもう二度刈った。せまい洗面所で、しかも車椅子なのでやりにくい。後ろを少しずつ切って、最後はもみ上げをそろえ、かみそりで仕上げる。しかし103歳の母の髪を、81歳の息子が刈っている図はなんともほほえましい。
母は初めて産んだ長男のわたしが、口内炎で乳が飲めず、泣いて気張ってヘルニアになって苦労したらしい。小学校に上がる前にヘルニアは治ったが、父とともに手をつくしてくれた。
「お母さん、むかしは<親孝行したい時には親はなし>というた」「そうやな」「今は<親孝行やってもやっても親がおり>や」。妹の声「どんな親孝行したのよ」。トホホ。「これから、なが〜く親孝行できるということじゃ」「ありがたいな」。
「わたしを母の胎から取り出し、その乳房にゆだねてくださったのはあなたです」(詩篇22・10)