化粧とスッピン

若い女性が電車の車内で化粧をしている。大きな鏡を取り出し、人目もはばからず夢中でやる。時々目をくわっと開いてくまどりをする。唇に紅をぬり、眉に細い刷毛を使う。
はしたないとか、無作法、臆面もなく、といった言葉をすべてはね返す熱心さで、鏡に見入って器用な指さばきをつづける。
周りを気にもせずに化粧をするのは、見られる自分を気にしているからだ。自分の化粧に納得がゆかず、不安なのかもしれない。考えてみれば、周り全部の人の顔は見えるのに、自分の顔だけが見えない不安さだ。
しかし他人は自分が思うほど見てはくれない。化粧の効果はほとんどない。
ふだんわたしたちは、自分の顔のことなど忘れて生きている。周りの目を押し返す、内からあふれる力があればいいのだ。主を喜ぶこころが、化粧よりはるかにその人を輝かせるはずだ。
化粧しないことを「スッピン」というらしいが、スッピンで輝くのがほんとうに美しい方だ。そんな方がそこここにいられる。教会のうちそとに。
「目のふちを黒く塗り、美しく装ってもむなしい」(エレミヤ4・30)