魂柱・アニマ

きのうバイオリンをわが家にお持ちくださった中村良樹さんの工房では、その材料の板が風通しよく重ねられている。松もカエデもイタリアから買ってきたもの。
イタリアでも最良といわれるウディネ地方の樹齢200年の松の大木を探し、枝のない幹を輪切りにする。しかも南側の成長の早い部分は捨て、年輪の緻密な北側をバイオリンの長さと幅に合わせて切断。日本に運び毎年そのゆがみ、ねじれを削り10年は寝かせて乾燥し、極めつけの板をつくる。
二枚の板を削るさい、髪の毛一筋の太さも違わぬ微妙な指さばきと感性が必要だ。この二枚を支える側板は、響きのために木目がそろったカエデを選ぶ。
上の松材の響板と下のカエデの裏板の間に「魂柱」(アニマ)と呼ばれる繋ぎ柱が立つ。それは太さ数㍉、長さ数㌢の円柱だ。これを完成した楽器のf 字孔から入れる。10分の1㍉ちがっても楽器のいのちが左右される。これは響板にひろがる弦の音を下板に伝える大事な柱。
良樹さんは、神が人間を創られた時、アダムに「命の息を吹き入れ人は生きる者(アニマ)となった」ことを思い、楽器に命を吹き込むアニマの設定に全神経を集中させる。
バイオリンも人間も、アニマ(霊に生きること)なしに、まことの響きは出ない。
「主なる神は土(アダマ)の塵で人(アダム)を形づくり、その鼻に命の息を吹き入れられた。こうして人は生きるもの(アニマ)となった」(創世記2・7)