五月のハエパン

このごろハエを見ない。蚊やノミやシラミもいない。日本は清潔な国になったものだ。アフリカから帰った青年がたずねて来て、日本の「除菌、殺菌、消臭」騒ぎを過剰反応だと批判していた。そのとおり。かえってからだの免疫力が失われないか。
むかし日本陸軍にいたとき、部隊本部から「命令会報」が届いた。「各自演習ニ差シ支ヘナキ限リ常時ハエタタキヲ携行シハエヲ除去スベシ」。それには「但シ書」があり、「ハエ100匹ニツキパン6ケヲ支給ス」とあった。
さあたいへん。パン6つもらえるとあって兵隊はハエ叩き作りに熱中。めし粒をこねて強い糊にし絵葉書を切って張り合わせる。竹を削り先を割き絵葉書に差し込み糸で縛る。
食器洗い場あたりをブンブン飛び回る五月バエを、パンパンと打ち落とす。それを鼻紙に大事にしまう。わたしは3人共同でハエ100匹を集め1人2つの菓子パンにありついた。1人で6つ食べようとした兵隊は、みるみるハエがいなくなり90匹は集めたが100匹に届かず終い。「ば〜か」。このパンを「ハエパン」とよんだ。
これはみなの困りものを、努力次第で、あっというまに退治できるということだ。そのさい小さなご褒美が大事。物でなく皆の前でことばで褒めるだけでもいい。力が出る。「右の手のすることを左の手に知らせるな」と言ったイエスが、どれだけ人を褒めたか。
「忠実な良いしもべだ。よくやった。お前は少しのものに忠実であったから、多くのものを管理させよう」(マタイ25・21)