「おしん」とフィリピン

一九八三年春からNHKが放送した連続テレビ小説おしん」は、一九六六年放送の「おはなはん」とならぶ超人気番組です。しかも「おはなはん」の驚異的な平均視聴率四六%を、「おしん」はあっさり塗り替え五〇%に達し、最高では六三%にもなったそうです。
しかも「おしん」は、日本だけでなく、世界五九カ国でその国のことばに吹きかえて放送されました。二〇〇六年現在「世界で最もヒットした日本のテレビドラマ」です。エジプトでは放送中に停電し、市民が怒り、発電所やテレビ局に投石したほどですし、トルコでも自分の子どもに「おしん」という名前をつけるものまで出たと聞きました。
しかしアジアの国々で唯一、「おしん」の評判が悪い国があります。それがフィリピンと聞いて驚きました。放送開始から、たった三回で放送が打ち切られたと、マニラで発行されている日本語新聞の最近のコピーで知りました。マニラの「日比聖書教会」で伝道される横川知親牧師が送ってくださいました。
つまりフィリピン人には、苦難にめげず、あきらめず、辛抱して志を貫くより、楽しく、明るく、苦労しないで幸運にめぐりあう姿を喜ぶ国民性があるというのです。その楽天性は見上げたものです。
これは、食料は手軽に手にはいり、衣料にも金がかからない、フィリピンの熱帯風土のほか、マックス・ウエーバーのいう、プロテスタントの職業倫理とは違う、まず楽しむために働くカトリック信仰とも関係するのでしょうか。
そこでのプロテスタント伝道は、これらを踏まえてしなくてはなぬ困難があります。しかし「日比聖書教会」五月の教会報には、うれしいことに、三人の若いフィリピンの方々の受洗が報告されています。横川牧師はこういうところで、もう二六年もフィリピン人に伝道されているのです。こういう日本人もいるのはうれしいこと。「苦難は忍耐を、忍耐は練達を、練達は希望を生む」(ローマ5・3)