青墨の香り

あさ墨をする。青墨の香りがただよう。わたしが書道を習った宮本沙海先生から求めた円墨だ。「羅漢」の字が浮き出ている。この字は沙海先生の師匠の内山雨海の筆だ。
中国の古墨を内山雨海が研究し大学の顕微鏡でしらべてもらい、日本では岩手県の海から遠い深山の松根が最上とわかった。それを燃やしてすすを採り、にかわで固め香料を加えたと聞いた。径10㌢の円墨を一つはすり切り、二つ目の半分大を大事に使っている。
あさ墨をするのは、母に見せるためだ。2年前から「小倉百人一首」を書き、「基督者百人一首」からも選び、いまは父の歌集「イエス・キリストわれにしたしき」だ。半紙を一枚出し、まず書くべき父の短歌を決める。けさはこの歌。
「うからみな集ひて聖書を輪読す家庭礼拝の孫の声さゆ」
日中はソファーに寝ている母は、103歳9か月だが、めがねなしですらすら読む。字が大きいのと、光に透かすためだ。「ええ歌や」と笑う。
いつまでつづけられることか。父の歌集は458首。主の恵みでもう300首は書いた。
「あなたがたは、キリストが、墨ではなく生ける神の霊によって書かれた手紙です」(第2コリント1・3)