白井きく先生と数学と聖書

白井先生はもともと数学の教師。東京女高師を出て、浦和の女子師範や、青山女学院の先生をされた。その教え子に酒枝義旗夫人・現子様や、独立学園の枡本華子先生もいる。だから生徒の扱いはなれたもの。
ギリシア語をわたしに教えるさいも「あら、この前も同じ質問をなさいましたわね」と、出来の悪い生徒に辛抱づよい。おかげでマタイからガラテヤまで、ギリシア新約聖書をいっしょに読んでいただいた。
先生は月水金と、桜新町の塚本虎二先生の「聖書知識社」に通い、無給でその事務一切をこなし、火木土とわが家にいて受験生に数学を教授。
先生のところへ、大学受験のため数学を習いにくる高校生に、先生はまず中学の問題をやらせる。できないと小学校の問題と、できる水準まで下げてゆく。「だいたい分数あたりから、ごちゃごちゃしてくるの。それが解けだすと、面白くてぐんぐん伸びる。数学の出来ない子は英語や社会はできるから、希望校へ入れるのよ」。
塚本門下で一番大きな働きをされたのは白井きく先生ではないか。晩年ギリシア語から訳しながら「マルコ」「ルカ」「ヨハネ」「使徒」「ローマ」「ピリピ」「黙示録」の聖書注解書のほか、十指に余る信仰書を刊行。日本の女性でこんな働きをされた方を知らない。すごい先生に習ったものだ。
「白髪となっても、なお実をむすび、命にあふれ、いきいきとし」(詩篇92・15)