刑務所印刷

shirasagikara2006-08-04

8月3日の朝日新聞天声人語」欄で、作家の吉村昭氏が「刑務所通い」をされていたと知り驚いた。わたしも「府中刑務所」「巣鴨刑務所」「横浜刑務所」へ通った。本の印刷費を安くするためだ。
わたしが生まれて初めて造った本が「浅田正吉著作選集」。白洋舎の五十嵐健治様から委嘱された。1959年のこと。
本づくりのため、日本点字図書館の加藤善徳さんに指導を仰いだ。加藤さんは「次郎物語」を始め、出版のベラン。「本は20年先の読者を考えるのです」。そこで浅田正吉先生の古い表現、「然し」を「しかし」に、「或は」を「あるいは」にと、発音を損なわず訂正。
また府中刑務所の印刷主任を紹介された。断然安い値段。写真類は巣鴨刑務所で刷った。のちその主任が横浜刑務所に転勤され、そのあと手がけた本は横浜で出張校正した。刑務所で困るのは、腕のいい受刑者が出獄して質が落ちることだ。
本の装丁は、画家の井崎昭治さんに頼み、用紙問屋、製本屋、金版屋、箱屋までいっしょに歩き、こうして本ができるのかと初めて知った。
矢内原忠雄先生が「教文館で、浅田正吉著作選集を見て、懐かしさに耐えず、一本求めて帰り」と葉書をくださった。だれも「刑務所印刷」と知るまい。奥付は府中。
「主が恵み深い方だということを、すでに味わいました。この主のもとに来なさい」(第1ペトロ2・3)