三浦光世著「青春の傷痕」

著者は、女流作家・三浦綾子のご主人だ。本書で彼は、これまで断片的だった自身の少年期から青年期にかけての記録を一気にしるした。
三浦光世は綾子の生前、見事なほど影が形に添うように綾子の黒子役を演じた。しかし彼自身も一本の太い幹で、綾子と寄り添い伸び、ちょうど屋久島の巨杉が内に二つの年輪をもつように、綾子・光世も合体して太い幹になったと、わたしは書いた(光世著「死ぬという大切な仕事」光文社文庫・巻末解説)。
三浦光世は太い幹だった。国木田独歩のいう「非凡なる凡人」、いや「平凡なる非凡人」だ。宮沢賢治のいう「並び立つ億の巨匠」の一人だ。ただものではない。
彼は少年時代に父を失い、母が美容師修行のため家を出るさい、母方の祖父の開拓農家にあずけられる。驚いたことに、父も開拓しつつイエスと一人語り合う信仰者だったし、祖父も福島県にいた青年期からのキリスト信者。母もキリストを信じ、光世も兄と共に受洗。つまり北海道の果てでキリストに囲まれて育っている。この信仰が光世と綾子を結びつけた。神様のなさることにむだはない。
ほんとうに出来る人物は、さえぎられても、抑えられても、頭をもたげるものだ。悲しみと喜びに満ちたこの自伝は、また新たな「億の巨匠」を生むにちがいない。
「み顔の光をあなたのしもべの上に輝かせてください」(詩篇119・135)
三浦光世著「青春の傷痕(きずあと)」(いのちのことば社フォレストブックス・06年11月刊。B6版・195頁・1300円)。ISBN4-264-02484-6