世界史地図

わたしは世界史地図をときどき眺める。大帝国もつぎつぎ色が塗り替えられるのが面白く痛ましい。
ローマ帝国の領域に沿って、1世紀から6世紀にかけ、キリスト教が広がるかと思えば、7世紀にイスラムが勃興すると、あっというまに、中東から北アフリカやスペインまで、イスラム帝国に地図が変わる。アジアでも秦が統一国家を造ったあと、さまざまな王朝が生まれては消えた。
20世紀初頭、英国が世界の七つの海を支配する大帝国だった。カナダも、豪州も、インドも、ミャンマーも、シンガポールも、ジブラルタルも英国が抑えた。アフリカの東半分は、タンザニアのドイツ領をのぞき、北のカイロから、南のケープタウンまで英国が支配した。それが20世紀後半には、英国はふつうの国になり、米国が超大国にのし上がる。その米国もかげりが見え始め、中国、インドの勃興がいちじるしい。
むかし、わたしは「世界史地図」の作成にかかわった。1949−50年ころ、守屋美都雄先生に声をかけられ、国立国会図書館に勤めながら、週1回、夜、先生のお宅にうかがい、高校の世界史の教科書に沿って歴史地図を作っていった。そのため、西洋と東洋の歴史をつなぐ大きな年表をまずつくった。わたしはそのとき、初めて「世界史」が理解できた。やがて守屋先生の兄上が経営される、帝国書院という出版社からりっぱな地図になった。わたしがつくった「近世・革命世界伝播地図」が、全国の高校歴史教科の先生方への案内宣伝はがきに採用されてうれしかった。
「帝国」はいくつもの「王国」を支配する国だ。「大日本帝国」は半世紀あまりで消滅したが、これからの日本は、英国のような「ふつうの国」になればいい。気張ることはない。世界に誇れる平和憲法をもっているし、エコ技術も世界最先端をゆくという。身の丈にあった充実の国がいい。世界史地図がそれを教える。
キリスト教会も、大きさを競わず、これまた、身の丈にあった充実の教会がいい。
「落ち着いた生活をし、自分の仕事に励み、自分の手で働くように努めなさい」(第1テサロニケ4・11)