ハンセン病の松本馨さんの聖句暗唱

どんどん聖書を読みすすむのも大切だが、聖句を暗唱するのも大事だ。いざというとき短い聖句がその人を支える。
人間の暗記力は、つちかえば、つちかうほどのびる。学校の先生は、専門の知識を山のように覚えている。歌手もたくさんの歌詞を忘れない。演奏家も楽譜を見ないで長い曲を弾いてゆく。一所懸命にやればおぼえられるのだ。
筆記用具が高価な時代、人々の暗記力は今とはけた外れに大きかった。日本でも稗田阿礼が暗記し、太安万侶が書き留めて「古事記」3巻が8世紀にできた。アイヌ民族叙事詩ユーカラ」も口伝だ。
ハンセン病をわずらった松本馨さんは、療養所である日突然盲目になった。「神さま、どうして」と叫んだとき、となりの部屋から、朗々と聖書を読む声が聞こえた。
「ああ、わたしは、目は見えないが耳がある」と考え、クリスチャンの友人2人に毎日聖書を10節ずつ読んでもらい、暗記を始めたという。「暗記は20分くらいですみましたが、それを心の扉にしるす仕事がたいへんです。昼となく、夜となく、何十回でも、肉碑に刻印させるまで口の中で繰り返すのです」(この病いは死にいたらず)。そうです。毎日新しく覚える上に、きのうまで覚えたのを忘れぬよう記憶に刻むのですからたいへん。
こうして松本さんは、10年かけて旧約聖書の「詩篇」「ヨブ記」。新約聖書の4つの「福音書」「使徒言行録」と13の「パウロ書簡」を暗記された。新約聖書全巻より長い分量だ。
わたしは、こんな方が日本にいられたかと驚き、多摩全生園の松本さんをたずねた。きちんと整頓された部屋で、松本さんが「ロマ書」何章何節と言われると、わたしはあわてて聖書を開くが、彼は上を向いてすらすら話される。そして「藤尾さん、人間の能力は無限です」と言われた。いやはや参った。神さまがこんなに力を下さっているのに、わたしたちは使わないでいるのだ。申し訳なし。わたしたちも、これぞという聖句を覚えよう。矢内原忠雄先生はその集会で、必ず聖句を暗唱させたという。
「あなたの御言葉が見いだされたとき、わたしはそれをむさぼり食べました。あなたの御言葉は、わたしのものとなり、わたしの心は喜び躍りました」(エレミヤ15・16)