十二使徒群像「ユダの救い」

shirasagikara2010-03-08

十二使徒の一人ユダは「裏切り者」の烙印(らくいん)を捺(お)されて恥辱(ちじょく)にまみれる。しかし福音書本文は、彼をどうしるしているか。
ユダも、イエスが徹夜の祈りのすえ(ルカ6章)「これと思う十二人」(マルコ3章)に選ばれた一人だ。しかし彼だけがガリラヤ出身でなく、南のユダの「カリオテ」の出だった(ヨハネ6章)。彼は使徒団の会計をまかされた。頭脳明晰(めいせき)で、計算が速いだけでなく、みなに信用されたのだ。
エスも最後の食事で(ヨハネ13章)、左を下に横たわったさい、イエスの右前にヨハネが寝そべり、イエスの左後ろの席をユダと定めた。ヨハネは寝たままイエスの胸によりかかり「(裏切り者は)だれか」と聞く。イエスは「パン切れを浸して渡す者」と小声でヨハネの耳元にささやき、左のユダにパン切れを与えた。つまりイエスは、ユダに主の左隣という特等席を与え、しかも裏切り者がユダであることを、みなに分からせないよう、細心の注意をはらわれている。
またユダの足をも洗われたし、「共観福音書」では、最後の晩餐のパンもブドウ酒もユダに与えられた。
共観福音書で、ユダがイエス離反の決意をするのは、あの「香油事件」だ。しかし「無駄だ!」と叫んだのはユダだけではない。しかしユダだけが祭司長とイエス引渡しの交渉を始めた。「貧民の友イエス」の名がすたると、ユダ自身イエスに裏切られ、がっかりしたからだ。
もう一つ、ヨハネ福音書では、民衆がイエスを王にする動きのあと、「わたしは天からのパン」の話で、多くの弟子が離反したとき、ユダは裏切りの悪魔となる(6章)。これもイエスに抱いた彼の夢「イスラエルの希望」が砕かれたからだ。
にもかかわらず、イエスは最後まで彼が「悪魔の子」から、「光の子」へ帰るのを期待されたふしが見える。塚本虎二の弟子で、新約学者の前田護郎は「ユダの救い」という小文を書いている。
わたしの群像では、ユダは上段のペトロの隣に座らせ、恥ずかしげに右手を顔前に広げ、左手に金袋を握らせた(写真)。
「イエスを捕らえた者たちの手引きをしたあのユダ」(使徒言行録1・16)