キリスト信仰と俳句

shirasagikara2010-07-19

宮脇白夜(はくや)の第7句集「聖燭」が、白夜の帰天1周年を記念して由利夫人により刊行された。白夜はれっきとした俳人だ。「降る雪や明治は遠くなりにけり」などの名句で「昭和の芭蕉」といわれた中村草田男に師事したが、近い血縁でもあった。彼は草田男創刊の俳誌「萬緑」の編集長もつとめ、慶応大学の俳句会のリーダーでもあり、のちみずからの俳誌「方舟」を主宰した。
これまでハンセン病の玉木愛子の「真夜の祈り」などの句集はあったが、本格派の俳人のキリスト信仰句集は日本で初めてでないか。本書は既刊6句集や未収録の中から、信仰の俳句383句を選び、見開き2ページに4句をおさめ、珠玉の信仰句集となっている。
「方舟に在るかの目覚め雪降れり」「凌霄花パウロには文多かりき」「耳の奥に納めし福音山すみれ」「躓きしよりの信仰冬の蠅」「教会報に一猫の訃や寒明けぬ」(この句には覚えがある。当時わたしが住んでいた中野・同信会の庭の野良猫・ラザロの死を「週報」に書いた)。「盥(たらい)に満たす洗礼の水遅桜」「風呂場にて受くバプテスマ春の雷」(80年4月15日。ここに「藤尾正人兄より受洗」とある。前年10月24日由利夫人も受洗)。
その後、彼はカトリックに改宗した。小さな同信会に納まる人物ではなかった。改宗後も、わたしとは最晩年まで交流がつづき、その旺盛な著作のたびに「方舟」をふくめ贈呈をうけた。
「指組めばおのずと祈り雪卍」「夜半の雪『主』の息絶えしごと止みぬ」「梅雨明の雲の変幻黙示録」「荊冠に似るドームの頭(ず)原爆忌」「マリア像眼窩(がんか)黝々(くろぐろ)長崎忌」「瞳(め)の映るほどの薄粥受難節」「萬緑やわが身に滾(たぎ)るパウロの血」「ヨブ記読む胃なきところに懐炉当て」「聖堂に主とふたりきり秋深し」「浅春のチャペルの隅の竹箒」「黒揚羽聖書講座の窓覗く」「救世主躓き躓き来る春野」「深夜覚め足す祈りあり春浅し」。「一の鳥居二の鳥居経て初ミサへ」「『根気よく祈れ』と声や金銀花(忍冬)」「盲(めしい)にのみ見ゆる天使や降誕祭」
日本中のどの教会にも、俳句をつくる方、好きな人がいるはずだ。この句集は、教会備え付けの図書にふさわしい。
宮脇白夜句集「聖燭」(A5版・227p・10年6月刊、2800円、本阿弥書店 ISBN978-4-7768-0720-9)
「ペトロが答えた。『あなたは、メシアです』」(マルコ8・29)