つきない妻との会話

(童謡作家・金子みすず調で)
「わからずや」というと、「わからずや」という。/「がんこもの」というと、「超がんこもの」という。/「くそばば!」というと、「くそじじ!」という。/「たれパイ」というと、「でばら(出腹)」という。/「参ったな」というと、「それごらん」という。/「あなた、おならしたでしょう」というので、「わかったか」というと、「わたし耳いいもの」という。/「無味無臭だ」というと、「あなたは鼻が利かないからしあわせね」という。そこで「うるさい!」。
「お前のおじいさんは、恵まれた伝道者だった」というと、「わたしの実家のことは言わないで」という。/「お前の生まれながらの性格はいい」というと、「わたしもそうおもう」という。/「お前はいいやつだ」というと、「あなたもよ」という。「横顔に品があるぜ」というと、「正面はどう」とこちらを向いてにっこり笑う。/「お前は煮物がうまい」というと、「わかってくれてありがとう」という。/「賛美歌うたうか」というと、「何番」という。/わたしが歌いだすと、「そんなにへたでは作曲者に失礼よ、別の歌にして」という。/「聖書はわしが読む」というと、「読むところを教えて」という。/「お祈りはお前だ」というと、「はい」という。
この妻と連れ添って58年になる。3人の子どもは結婚して独立した。もう長く妻と2人きりの毎日だ。なんでも話せる。つぎつぎ話せる。いくら話しても話がつきない。妻もよくしゃべるが、わたしの話も感心して聴いてくれる。水のような、空気のような、いつでも、どこでも、そこにあって、お金いらずの、ありがたく、それがないと生きるのに難儀する存在。
「あなたが死んだら、さびしいわ」という。「お前がさきに死んだら、わしゃこまる」という。/「あと4年は面倒みるわ」という。「なぜ4年だ」というと、「あなたのお父さんは90歳で召されたでしょう。あなたもあと4年で90よ」という。「納得」。/「あなたは天国では崖っぷちね。自分でブログに書いていたじゃない」という。「そうだ、わしは天国の崖っぷちに手をかけて、ぶらさがっている」という。/「みんな天国では驚くわよ。あんなに偉そうに聖書の話をしていたのに崖っぷちだなんて」という。「偉そうに聖書の話をしていたから、だめなんだ。神さまは裏をご存じだ」という。妻「大納得」。
「妻を得る者は良き物を得る、かつ主から恵みを与えられる」(箴言18・22、口語訳)