敵将を味方の大将に変身させたアナニア

shirasagikara2013-06-17

アナニアという人物は、聖書の中ではあまり有名ではありません。「使徒言行録」の、使徒パウロ大回心の9章にちらっと出てきます。シリアのダマスカスにいたアナニアには、パウロは恐るべき敵将でした。ユダヤの宗教権力者から、キリスト教撲滅の委任状を受けてやって来たからです。
敵に回しては怖いという人物は、味方にすれば頼もしい存在になります。パウロはガマリエルという大先生に就いて、ユダヤ教を底の底まで勉強しました。またパリサイ派と呼ばれるユダヤ教厳格集団に属して、熱心に信仰生活に励みました。理論と実践で群を抜いていたのです。だから、キリスト教にガマンがならなかったのでしょう。
だだの人間であるイエスという大工の子せがれを、キリスト・メシアだと崇めている。偶像崇拝でないか。律法で定められた金曜日の夕方から土曜日の夕方までの安息日を守らず、日曜日を主の復活の聖日としている。汚れと聖なるものの区別もわかっていない。
パウロは、全員馬にまたがった一群の部下を従え、エルサレムから北へ、サマリアを通り、ガリラヤ湖畔を走り抜け、ゴラン高原を越えてダマスカスまで300キロ、東京ー福島ほどの距離を駆けてゆきました。そしてダマスカス郊外でドカンとうち倒されたのです。その有様をクラナッハルーベンスも「パウロ落馬の図」として画いています。そして「わたしはお前が迫害するイエス」という声を聞き、目が見えなくなります。一方アナニアにはパウロ(サウロ)がお前を待っていると告げられます。
アナニアは平信徒でした。エルサレムの大迫害を逃れた「無神殿キリスト教徒」から福音を聴いて、クリスチャンになったひとりでした。その彼が、主の導きのままにパウロを探しだして、パウロの頭に手を置き「聖霊に満たされよ」と言うと、パウロの「目からうろこ」が落ちます。さらにパウロバプテスマをするのです。按手と洗礼です。資格など問題にしません。そして「敵将を味方の大将に変身させ」ひっそり消えたすばらしい人物です。アナニアさん、ありがとう。聖書はおもしろい。
「主が『アナニアよ』と呼びかけると、アナニアは『主よ、ここにおります』と言った」(使徒言行録9・10)<写真はバルミジャニーノの「パウロ落馬の図」>