貴くて低いクリスマス

shirasagikara2014-12-22

「ちいさい秋みつけた」や「リンゴの唄」で有名な詩人・サトウ・ハチロウにこんな童謡がある。
/おん馬がないて/目がさめた/まぐさの桶の/イエスさま/泪(なみだ)の路の/頬っぺたに/ぽつんとついてる/からす麦/起っきしたのと/マリアさま/添乳(そえじ)をなさる/お母さま/(「金の船」所収・1924)。
1949年の12月、当時国立国会図書館赤坂離宮(今の迎賓館)にあって、そこで始めた聖書研究会のクリスマスをその地下室で開いた。
もちろん夜。会場の半地下の部屋は、天井近くの地面に窓があり、そこからサンタクロースが赤づくめの衣装姿で、袋を背にはしごを伝って降りてきた。のち麹町の女子学院の英語教師になった山口(岩島)綾子さんだ。宮殿地下室のクリスマスは、一番貴い方なのに、一番低いところろを歩かれたイエスさまにふさわしかった。
クリーニングの白洋舎の東京北支店が、日本基督教団・弓町本郷教会最上階のロフトの大部屋を借りて、毎年社員クリスマス会を開いた。定刻に司会の職員が、賛美歌を指導し聖書を読む。手に手に蝋燭の火を持ち、40〜50名集まって始めた礼拝が、わたしが話し出すころには60〜70名にふえている。話しているとまだまだふえる。営業で外まわりしていた社員が駆けつけるからだ。わたしは「草いきれのするクリスマス」だとおもった。
あの夜、天使からキリスト誕生を告げられて、野原で寝ずの番をしていた羊飼いが、むっくりおきだしたとき、草のにおいがしたはずだ。白洋舎の店員が、営業から駆けつけるとき、野原の仕事場から駆けつけた羊飼いと同じにおいが感じられた。
世界の救い主が、くさい馬小屋でお産まれになった。両脇に立つ馬のお腹を見上げるような、地べたでマリアさんはイエスさまを出産し、父ヨセフはきたないまぐさ桶に赤子を寝かせた。赤坂離宮の地下室のように低い場所だ。しかしそこは貴い場所だ。そこへ野原からむっくり起きた羊飼いや、営業から駆けつけた青年が礼拝に駆けつける。いい眺めだ。
「マリアは月が満ちて、初めての子を産み、布にくるんで飼い葉桶に寝かせた」(ルカ2・6)。<写真は南天の実>