「デカポリス新聞」紀元28年〇月〇日号

shirasagikara2015-09-05

「昨夜、ガリラヤ湖は激しい嵐に見舞われた。わが社の記者が目撃者から得た情報では、2隻の舟が対岸のガリラヤから漕ぎ出して来たが、大波のため一晩中接岸できず、明けがた不思議な凪(なぎ)になり、10人あまりのその一行は無事デカポリスに上陸したという」。
「そのときデカポリスの住民なら、だれ知らぬ者もない、あの重い精神の障がいに苦しんで、鎖で縛っても、足かせをはめても引きちぎり、裸で墓場に住み、夜昼うなり声を上げる乱暴者が、いきなり、びっくりする奇声をひびかせたという。『後生だ〜!! おれを苦しめないで〜!!』」。「すると、対岸から来た一行の一人が進み出て『汚れた霊、出てゆけ』と叫んだ」。
ちょうどそのあたりで豚の大群が餌をあさっていた。乱暴者が急に大声をとどろかせたため、1匹の豚が驚いて駆け出したという。豚は昨夜の嵐で土石流の崖崩れがあった大穴から転がり落ちた。ほかの豚も驚いて走り出しつぎつぎ2000匹も穴から湖になだれ落ちた」。
「村人の話では、それは、あっというまの出来事で、2000匹の豚の悲鳴と、転落して水しぶきの上がるさまは、それを見たものみな、すさまじいショックを受けたという」。「その騒ぎが収まると、あの乱暴者が正気に返って服をまとい、ガリラヤ人の足元に座っていた。豚飼いたちや村人は腰が抜けるほど驚いたそうだ」。
「豚飼いたちは、4頭・1デナリとして、500デナリの大損害にもかかわらず、乱暴者が正気に返ったことを不気味がり、『汚れた霊、出てゆけ1』と叫んだ人に『出て行ってくれ』と頼んだという」。「わが社の記者の調べでは、その叫んだ人は、対岸のガリラヤでは『イエス』とよばれ、青年預言者として人気が高いらしい」。
「そのイエスに癒された者は、すぐデカポリスの町に入り、大声で『イエスが』『自分に』『してくださったこと』を話し出し、みなが驚いて聞いている光景を本社記者も目撃している」。
「豚は食肉として、デカポリス駐屯の『ローマ帝国・海峡第10軍団』に納めるもので、その軍団(第10レギオン)の軍旗の紋章は、みな知ってのとおり豚だ。豚(ローマ)が負け、イエスが勝った物語りとして、ひそかに市民の中でささやかれ始めている」。
「その人は、イエスが自分にしてくださったことを、ことごとくデカポリス地方に言いひろめた」(マルコ5・20)<写真は萱つりそう>