「フィリピ新聞」紀元50年〇月〇日号「パウロとシラスの二人」

shirasagikara2015-09-15

「けさフィリピ地方を強い地震が襲った」「本社記者の調査によると、街をめぐる城壁の中央を東西に貫く『エグナティア街道』の南がわの被害が大きいという」「街道の北に建つ裁判所や円形劇場は一部こわれただけだが、南がわの中央広場の周りの市場はつぶれ、石造りの水洗公衆トイレは使用不能」。
「とくに揺れがひどかったのは、城壁の南門の外の監獄のあたりだ」「そして、その囚人らが語ることばに本社記者は深い感銘を受けた」。
「きのう、二人のユダヤ人が騒乱罪で民衆から告発を受け、中央広場に引きずり出され、衣服をはがれ、裁判も受けずに市民環視のなかで『鞭打ちの刑』に処せられたことは本社も承知している」「そのあと馬が引く荷台に放り上げられ、断崖の横穴の牢獄に投げ込まれた」。
「牢獄での聞き取り調査で囚人たちの語ることばによると、血まみれの二人のいたましい姿にまず驚いたらしい」「ところがもっと驚いたのは二人の表情がなんともいえぬ柔和な喜びをたたえていたことだ」「看守は二人に足かせをはめ牢獄のいちばん奥の部屋へ押し込んだ」。
「囚人たちが一番驚いたのは、ま夜中ごろ二人が小声で歌う不思議な歌声だ」「それはギリシアの旋律にない深い清らかな歌だった」「さらにギリシア語で『感謝の祈り』を始めたという」「感謝などできるはずはないのでたまげたのだ」「そのとき激しい揺れが襲い、牢獄の扉はみな開き、囚人をつないだ鎖はぜんぶ外れた」。
「驚いて駆け込んだ看守は、開いた扉と静かな獄舎を見て、囚人が逃亡したと勘違いして、責任を感じ自殺を図った」「そのとき、ユダヤ人の一人が『死ぬでない!みなここにいる』と叫んだ」「囚人たちは昨夜からの二人のふるまいに感服し、牢名主のような二人が動かぬ以上、自分たちも金縛りにあったように動けなかったという」。
「看守は『先生がた、救われるためどうすべきでしょう』とひれ伏した」「二人は『主イエスを信じなさい、そうすれば、あなたも家族も救われます』と言った」「看守に取材したところ、彼は規則を破って二人を官舎に招き、打ち傷を洗い薬をぬり、家族ともども洗礼を受け、食事をしたという」「囚人たちは、二人に心服していたので、だれ一人逃亡しなかったという珍しい事件だ」。
「高官たちは、二人がローマ市民権を持つ者であると聞いて恐れ、出向いて来てわび、二人を牢から連れ出し」(使徒言行録16・38)<今年の彼岸花は早い>