「カナ」と「ハングル」

紫式部が「源氏物語」54帖を完成させたのが、いまからちょうど千年前の1008年のこと。世界最古の女流作家として、パリのユネスコ本部に彼女が飾られている。
これは「ひらがな」が、千年も前に日本の知識階級の女性にひろく用いられていたからだ。カタカナは、漢字を使っていた男子知識階級が、漢文の音訓に用いたのが始まりだが、ひらがな、カタカナとも、漢字を省略したものだ。「い」は「以」、「ろ」は「呂」。「ハ」は「八」、「ニ」は「仁」のように。つくられたのは10世紀の平安時代だ。それ以前はあの「万葉集」でさえ「万葉仮名」の漢字の音で書かれた。
ところが韓国の文章は「ハングル」一色だ。じつは日本人も韓国人も、それぞれのことばをあらわす文字がなかった。日本人は「かな」を創ったが、韓国人は「ハングル」を創った。日本の「かな・カナ」は漢字の省略だが、「ハングル」は独創的で、構想力に富むすごいことばだ。京城(ソウル)大学教授だった安倍能成(のち一高校長、文相)は、世界でもっともすぐれた表音文字と評した。
韓国では1446年、世宗大王が学者に命じハングルを創らせ公布した。世界で一つの言語が何年何月何日に公布されたことはない。韓国では10月9日を「ハングルの日」と呼ぶ。
19の子音と、母音21の組み合わせで複雑な発音もできる。日本ではもう使わない「菓子・くゎし」も、ハングルでは「菓子・くゎじゃ」といまも発音する。
聖書の翻訳でも、韓国ではハングルのみだ。だから女性でも子どもでも、どんどん聖経が読めた。それに儒教の影響で素読の伝統があり、聖経愛読は韓国教会の強みだ。
日本の聖書は、漢字かなまじりに、外国の地名・人名はカタカナで入れ、日本人には読みやすい。表意文字の漢字を捨てず、表音文字のかなと組合す日本人らしさがある。
「聖書はすべて神の霊の導きの下に書かれ、人を教え、戒め、誤りを正し、義に導く訓練をするうえに有益です」(第2 テモテ 3・16)