長谷川洋子著「サザエさんの東京物語」

shirasagikara2015-04-15

<4月から、5日、15日、25日掲載の「5の日・旬刊ブログ」とします>
長谷川町子さんの妹の洋子さまが書かれた「サザエさん東京物語」が、こんど文庫本(文春文庫、2015年3月刊)になりました。2008年に単行本で出たときも著者からいただき読んだはずなのに、読み出したらその面白いこと、引きこまれてやめられません。
びっくりすることが三つあります。第一は「文才」。あの芥川・直木賞をつくった作家の菊池寛が、洋子さまの才能を見抜いて、東京女子大国文科を中退させたのもうなずけるその文章は、むずかしい会話体も苦もなくこなしなめらかです。第二は「記憶力」。洋子さまは、忘れやすい子ども時代から、そのご一家の日々を、くまなく覚えて書きこまれます。第三は「家の内の情報公開」。長谷川家の内情を洗いざらい書きつくし、庶民読者もひと安心。
これまで「サザエさん・うちあけ話」で、町子さんご自身が書かれたのは、マンガづくりの「裏話」でした。またNHKの朝ドラ「マー姉ちゃん」でさえ、えがかれた長谷川家の内情は限られたものでした。本書では、時々刻々の動きを、転がるような勢いで、しかも品格の高い一家の生身がむきだしにされます。
それに本書には、母上を中心にキリスト信仰の線が一本張られ、矢内原忠雄先生とか、わが信仰の師・酒枝義旗先生も登場して「矢内原先生の厳しい愛と酒枝先生の温かい愛を教えられて幸せ」などと出てくると、わたしなどたまりません。
サザエさん」が売れに売れ、その莫大な収入を管理する母上が、「これは神さまからの預かりもの。困っている方へと」惜しみなくばら撒かれる様子とか、その母上の認知症治療のいきさつとか、町子・洋子の海外旅行の珍道中や、町子さんの胃がん手術騒ぎとか「深い話」がごろごろ転がります。
本書の最後は、串だんご三姉妹から一人抜けた著者の、独立自営時代の回想です。さて、長女・まり子さまは絵画・音楽の才に秀で、次女・町子さまは日本の女流マンガ家の第一人者。しかし「この姉たちにして、この妹あり」と、お姉さまに一歩も引けを取らない文才で、洋子さま傘寿にして傑作を世に問われるとは、お見事。
「イエスはマルタと、その姉妹マリアと、ラザロを愛していられた」(ヨハネ11・5)